「ちょっと待って」の処理時間

■ 屋敷の観察記

主は、ときどき説明を省略したまま喋る。

本人の中では一本道になっているのだが、外から見ると途中の橋が何本か抜け落ちているらしい。

だから、会話の途中で時々、

「ちょっと待って」

と言われる。

主はその言葉を、昔はあまり良い意味で受け取っていなかったようだ。

話が伝わっていない。
変なことを言った。
飛びすぎた。

そういう沈黙だと思っていたらしい。

けれど最近になって、少し違うのだと気づいた。

「ちょっと待って」は、拒絶ではなく、展開時間だったのだ。

省略された途中の札を拾い集め、話題同士を繋ぎ直し、相手の頭の中で一本の線に戻す。

そのための、ほんの数秒。

そういう人は、しばらく考えたあと、

「ああ、それってつまり──」

と、途中で抜けた橋を補完しながら返してくる。

あるいは数日後になってから、

「この前の話、あれと繋がってたんだね」

と、時間差で続きを持ってくる。

主は、そういう瞬間を妙に嬉しそうに覚えている。

弥七にはそれが、会話というより、共同で地図を書き直している作業のように見えていた。

仕様書を書く前にコードを書きましたな?

喫茶店で考え込みながら会話を続ける二人。
弥七

この切れ端を記したのは、弥七でござる。